2026/7/21
2026年7月20日、イギリスのキア・スターマー首相が退陣し、労働党のアンディ・バーナム氏が新首相に就任しました。
2016年のEU離脱国民投票当時のデービッド・キャメロン首相から数えれば、この10年で7人目の首相です。議院内閣制の母国で、これほど頻繁に政治リーダーが交代している事実は、決して軽く見ることができません。
スターマー氏は2024年の総選挙で、14年ぶりの政権交代を実現しました。
しかし、労働党の得票率は33.7%にとどまりました。それでも下院650議席のうち411議席を獲得できたのは、単純多数決の小選挙区制の下で、右派票が保守党とリフォームUKに分裂した影響が大きかったためです。
保守党の長期政権に対する拒否が政権交代を生んだのであり、スターマー労働党が国民から圧倒的な支持を得たわけではありません。
政権発足後、スターマー氏は、外国人排斥をあおりながら支持を伸ばすリフォームUKに対し、生活不安や地域間格差に正面から取り組むのではなく、移民政策や政治的言辞を右へ寄せる対症療法的な対応を続けました。
しかし、右派ポピュリズムに追随しても、その支持者が労働党へ戻るとは限りません。その一方で、労働組合、左派・リベラル層、移民系住民など、従来の支持基盤からは見放されます。
その結果、労働党は2026年5月の地方選挙で大敗し、党内からの退陣圧力によって、スターマー氏は巨大な議会多数を持ちながら就任2年で首相の座を追われました。
バーナム氏は、グレーター・マンチェスター市長を務め、コロナ禍で保守党政権下の中央政府に北部地域への十分な支援を求めたことから「北の王」と呼ばれました。
もともとはトニー・ブレア元首相に近い労働党内右派と見られていましたが、市長就任後は地方分権、公共交通の公的管理、公共住宅、公共サービスの再建などを重視し、次第に左派色を強めてきました。
マンチェスターでは、民間事業者中心だったバスを地域の管理下に戻し、路面電車などと一体化した「ビー・ネットワーク」を整備しています。
新政権が直面するのは、生活費高騰、住宅不足、公共サービスの疲弊、地域間格差、低成長、財政悪化です。これらは日本の政治課題とも重なります。
ただし、政府支出を増やすだけでは持続しません。財政への信頼を失えば、金利上昇や通貨下落を通じて国民生活をさらに圧迫します。
必要なのは、「大きな政府か、小さな政府か」というだけの古い二者択一ではありません。新首相に求められるのは行政の効率化、公共交通、住宅、予防医療、産業政策、デジタル化を組み合わせ、限られた財源から最大の効果を生み出す、財政・環境の両面で持続可能な**「効率的な大きな政府」**の実現です。
格差や生活不安を放置すれば、その不満は外国人や少数者に向けられ、右派ポピュリズムの伸長につながります。民主的な政府が国民生活を実際に改善できることを、結果によって示さなければなりません。
バーナム政権の成否は、英国だけでなく、日本を含む各国で左派・リベラル勢力が復権できるかを占う試金石となるでしょう。新首相には、ぜひ頑張ってもらいたいと思います。
一方で、気になる点もあります。
大阪維新の会の府議団がかつてマンチェスターを訪問した際、定数25人のロンドン議会を引き合いに出して大阪府議会の議員数について尋ねたところ、当時市長だったバーナム氏は「Too Many」と答えました。維新側は、この発言を府議会定数を79人から29人まで減らす構想の材料として利用しました。
しかし、人口約900万人のグレーター・ロンドンを25人で代表するロンドン議会は、世界の大都市議会の中でも極端に小さい特殊な制度です。議員1人当たりの有権者は約25万人で、英国下院議員の約3倍に達します。しかも地域別に選ばれる議員は14人にすぎません。
この特殊例を大阪府議会の基準にすること自体が無理な比較です。維新が都合のよい一言を切り取り、議会の代表機能と行政監視を弱める定数削減に利用したことは論外です。
ただ、バーナム氏が、世界的にも例外的に小さいロンドン議会を当然の基準として「多すぎる」と即答したことには、ブレア時代以来の「人数を減らすことが改革だ」という感覚が残っていないか、不安を覚えます。
バーナム氏は、マンチェスターに首相府の北部拠点「No.10 North」を置く構想も掲げています。
しかし、首相の執務場所を増やすことと、地方分権は同じではありません。政府機関や職員をマンチェスターへ移すだけなら、地元への利益誘導や象徴的な演出に終わる可能性があります。
本当に必要なのは、マンチェスターだけを第二の中心にすることではなく、イングランド各地域へ課税権、交通、住宅、教育、産業政策などの実質的な権限と財源を移し、ロンドン一極集中を是正することです。
大阪とグレーター・マンチェスターの関係を理由に、維新関係者はバーナム首相の誕生を自分たちの「副首都構想」と重ねて歓迎するかもしれません。
しかし、一都市への首都機能の上乗せと、全国各地域への本格的な地方分権は全く別の政策です。バーナム新首相には、維新のように、議員定数の削減や政府機関の移転を「改革」や「地方分権」と取り違えないよう望みます。
今回、バーナム氏は総選挙を経ずに首相となりました。
英国では、下院多数党の党首が交代すれば、新党首が国王から首相に任命されます。これは合法であり、過去にも繰り返されてきました。
しかし、合法であることと、民主的に望ましいことは別です。
2024年の総選挙で労働党の首相候補として国民の前に立っていたのは、スターマー氏でした。バーナム氏を行政トップにするかどうかについて、英国民が直接意思を示したわけではありません。それでも次の総選挙は、原則として2029年まで行わなくてもよいのです。
日本も同じです。
日本の首相も国民が直接選ぶのではなく、与党内の力関係と国会の首相指名によって決まります。
高市内閣は、2026年7月18、19日のテレビ朝日の世論調査で、支持率が前月から10.9ポイント下落して49.2%となり、政権発足後初めて5割を下回りました。官邸内や自民党との意思疎通が十分にできていないとの指摘も報じられています。
今後、高市政権が退陣しても、国民が次の行政トップを直接選ぶことなく、自民党内部の手続と国会の首相指名で新首相が決まる可能性があります。
本当に問うべきなのは、「次の首相は誰か」ではありません。
なぜ、国民が行政トップを直接選べないのかという制度の問題です。
未来進歩党は、天皇を象徴として維持しながら、行政権を担う大統領を国民が直接選ぶ「日本型大統領制」を提案しています。
同じ制度は英国でも構想できます。
天皇や国王は、歴史的な連続性と国民統合を象徴する非政治的な存在として維持します。その一方で、行政権を担う大統領は国民が直接選び、固定任期を持ちます。議会も大統領とは別に選ばれ、立法、予算、行政監視を担います。
大統領選挙には二回投票制を採用します。第一回投票で過半数を得た候補がいなければ、上位2人による決選投票を行います。有権者は第一回では最も支持する候補を選び、決選投票では、二人のうちどちらが行政トップとして適切かを慎重に判断できます。
これは、首相を直接選んでも内閣が議会の信任に依存したイスラエル型の首相公選制とは異なります。
日本の都道府県知事や市町村長、英国のロンドン市長のように、行政トップと議会を別々に選び、相互に抑制させる仕組みを国家レベルに導入するものです。
「君主制を維持するなら議院内閣制、大統領制を導入するなら共和制」という考え方は、既存の制度類型にとらわれた保守的な固定観念にすぎません。
象徴としての君主制と、国民が直接選ぶ行政権は両立できます。
バーナム首相の誕生を機に、日本と英国は、政治リーダーが国民の知らないところで次々と交代する政治を終わらせなければなりません。
誰が行政トップを選び、そのリーダーにどのような任期と責任を与えるのか。統治機構そのものを根本から考え直すべきです。
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